形成外科クリニックを開業して、あっさり閉院した話 第7回

開業後6か月から1年目編

※例によって、独断と偏見に基づいて記録している。


目次

テコ入れ策を決行

このままでは、ただ資金が尽きるのを待つだけ。
そこで、思い切ってテコ入れを実施することにした。

1. 価格を下げる(都内最安レベル)
「とにかく誰かに来てもらわないと始まらない」という、極めてシンプルな理由。

2. ホームページの文章を、“自分の言葉”に書き換える
ありきたりな医療解説ではなく、本音ベースの言葉に修正。
どうせ誰も読んでいないだろうと思っていたが、これが案外、効果的だった。

テコ入れの結果、6か月目の途中から、ようやく患者がちらほらと増え始めた。


患者数の推移(延べ人数)

月数患者数
7か月目15人
8か月目40人
9か月目80人
10か月目90人
11か月目110人
12か月目120人

ようやく、「患者が来るクリニック」になってきた。
ただ、思ったより忙しい。

そして何より――
「ミスが出たらどうしよう」「事故が起きたら終わりだな」
という、じわじわとした不安が常にまとわりついていた。


売上の推移

月数売上
7か月目20万円
8か月目70万円
9か月目120万円
10か月目140万円

売上は伸びてきて、一見すると固定費を上回っているように見える。
だが、実際にはまだ赤字。


自費診療の落とし穴

売上の9割は自費診療。保険診療はわずか1割程度。

ぱっと見、自費のほうが儲かりそうに見える。
しかし、そこには予想外の落とし穴があった。

  • ヒアルロン酸・ボトックス:原価が高い。やればやるほど仕入れが増え、資金繰りが悪化。
  • レーザー・IPL:初期投資が高いためあまり利益が出にくい。

結果、自費診療は売上こそ上がるが、利益は残らない。
これが黒字化を阻む最大の要因だった。


11か月目、ついに黒字達成……だが

売上160万円。ついに黒字化達成!……と思いきや、利益はわずか約2万円

いや、自分、けっこう頑張って働いてるんだけど?


閉院を考え始める理由

  1. 患者数が1日5人程度でも、想像以上に忙しい。
  2. 利益が思った以上に残らない。
  3. そして――厚生局の「個別指導」

厚生局の個別指導……想像以上にキツい

個別指導とは?
診療報酬の請求が適正かどうかを厚生局がチェックする制度。
通常は開業3か月目あたりに入るものだが、
私の場合はそもそも保険請求がなかったため、指導が後ろ倒しになっていた。

そして、11か月目にしてついに召喚。


個別指導での悲劇

10名分のカルテを印刷して提出する必要があった。

……が、印刷時にトラブル発生。3人分が白紙で提出される。

厚生局の担当者は激怒。

  • 「本当に診療したんですか?」
  • 「あなたみたいな医者が……」

ただただ怒られる。
冷静に説明しようとしたが、相手はたぶん完全に周りの医者への見せしめモードに入っていた。

「毎月10万円程度しか請求していないのに、なぜここまで責められるのか」
この出来事が決定打となり、いよいよ閉院を本気で検討し始める。


12か月目、限界が見えてくる

1日の診療数は6〜8人に増加。だが――

  • 売上は横ばい
  • 利益はわずか3万円程度

このまま走り続けても、回収は難しいと判断するしかなかった。


資金の残りと閉院の決断

項目金額
この時点での残高約2,500万円
借入金を除いた手元資金実質ゼロ

ここで一つの算段が浮かぶ。

「今なら借入を返済し、内装をスケルトンに戻せば、ギリギリ損失なしで撤退できる」

こうして、開業12か月目にして閉院を決断することとなった。
看護師さん、受付さんに事情を説明し、閉院の告知を行う。

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