お尻に違和感
お尻に違和感を感じ始めたのは、たしか30歳くらいの頃だった。
トイレのあと、なんとなく異物感がある。何かが付いているような、あるいは出てきているような、妙な感覚。
床に手鏡を置き、その上にうんこ座りでスタンバイ。
肛門の様子を観察すると、そこには小さな血豆のようなものができていた。
異物感が強まってきたので、そろそろ外科の先生に相談しようかと思った。
が、当時の消化器外科の担当医は美人の女医さん。
しかも、ちょっと仲良くなりたい気持ちがあったので、どうにも肛門の相談ができなかった。人間だもの。
結局、上司に頼んでポステリザン軟膏を処方してもらい、1週間ほどで異物感は消失。
手鏡チェックでも血豆は見当たらず、ひとまず安心。
それから数年は、年に2〜3回ほど同じ症状が出るものの、ポステリザン軟膏で事なきを得ていた。
お守りのような存在になったポステリザン。ありがとうポステリザン。
お尻が飛び出る
40代に入ると、今度は肛門が飛び出す感覚──いわゆる「脱肛」という新ステージに進化した。
最初のうちはシャワーや風呂で押し戻せばよかったのだが、次第に“飛び出しやすい体質”に。
なかなか戻らないときは、
「1人診察 → お尻を押し込む → 1人診察 → お尻を押し込む → ……」
という、休憩=お尻を押し込む時間 という不思議な日常が続いた。
そんなある日、肛門の近くの皮膚に少し痛みを感じる。
「また何かできたな」と思い、いつもの手鏡でチェック。
すると、ニキビくらいの赤く腫れたできものを発見。
抗生物質を内服するも、改善せず。触るとやっぱり痛い。
「これは膿んでるな」と判断し、切開を決意。
頼める人がいない孤独
しかし、肛門付近を他人に切られるのは、なんとなく抵抗がある。
ということで、最終的に「自分で切る」ことにした。医者でよかった(?)。
日曜日の回診後の外来にて。
まずは腫れている部分に麻酔テープを貼り、その間に切開の準備。
ついでに止血用のバイポーラ(電気で血管を焼くやつ)もスタンバイ。
鏡を用意し、M字開脚でセット完了。
2時間後、麻酔が効いたところで注射麻酔を追加。
注射を打ちながらふと思う。
「これでアレルギーショック起こして死んだら、新聞の見出しは
“形成外科医、自らの尻に麻酔打ち M字開脚で死亡”だな」と。
鏡越しに赤い部分にメスを入れる。
視界は悪いが、気合いでカバー。
少量の膿が出てきたので、しっかり押し出してこの日の処置は終了。
終わりではなかった
実はこれ、ただのニキビのような腫れではなかった。
そう、痔ろうだったのである。
切開から半年ほど経った頃から、あの部位がときどき腫れ、
指で押すとニキビのようにぷちゅっと膿が出るようになった。
以来、トイレのあとは必ずシャワーもしくは風呂でお尻を洗うのが日課に。
外出先ではトイレに行かず、職場でも我慢。
まるで「学校では絶対うんこしないマン」だった小学生時代の再来である。
さらに脱肛も戻りにくくなり、
「これはちゃんと診てもらわないとヤバいのでは」と、
ようやく医者としての自覚が芽生え始める──