形成外科クリニックを開業して、あっさり閉院した話 最終回

総括編

※今回は特に偏見が強めです。お気をつけください。


目次

開業で最も重要なのは「集客」

開業して痛感したのは、最大の課題は集客だということ。
技術があっても、最新の医療機器を揃えていても、患者が来なければ意味がない。

そもそも、自分のクリニックが存在することを知ってもらわなければ、誰も来ない。
認知されていないクリニックは、存在しないのと同じだ。


ブランド力の重要性

開業して初めて、「ブランド」の力を思い知った。
特に美容外科では、大手と個人の差は技術ではなく、安心感という名のブランド力。

聞いたこともない医師に手術を任せるより、有名な大手に行くのは当然の行動。
患者は知らないクリニックには来ない。


価格設定の失敗

次にやらかしたのが価格設定。

価格を下げたことで患者は来てくれたが、月の利益が2万円では話にならない。
それはもう、お金を払って施術しているのと変わらなかった。

価格設定についてコンサルに相談したところ、返ってきたのは「大手と同じくらいでいいのでは?」という答え。
だったら最初から実績のある大手に行くのではないですか?、と思った。


正しい価格設定とは?

今思えば、「周囲の個人クリニックと合わせる」のが現実的だった。

大手とは価格で勝負にならない。
大手は大量仕入れで、卸値が圧倒的に安い。

でも、個人クリニック同士ならそこまで差はない。
だから、周囲と同等か、少し安めが妥当だったと思う。
ただし、極端に安いクリニックを参考にするのはやめた方がいい。
一緒に共倒れになる可能性がある

資金効率も重要だった。
例えば、アラガンのヒアルロン酸は仕入れが高い。
薄利多売にすると、在庫は減り、次の仕入れ資金も必要になって資金が回らなくなる。

毎日コツコツ稼ぐより、週1でまとめて利益を出す方が、資金効率は良かったと思う。
在庫リスクも減るし、精神的にも楽。

レーザーやIPLなどの機器についても、何人施術すれば元が取れるかは計算していたが、結果的には価格を周囲に合わせるべきだった。

脱毛などは今も価格競争が続いているが、過剰な値下げは自転車操業を招く。
それが原因で破綻しているのをニュースで見ることもあるだろう


在庫について

在庫をどれくらい持つかも悩ましい問題だったが、
国内に代理店があるようなメーカーなら、午前中に注文すれば翌日午後には届く。

予約を受けてから発注しても十分間に合うレベル。

ただし、海外製品は納期が不確実なので注意が必要。
供給の遅れを見越して、ある程度の在庫は持っておいた方がいい。


資金はできるだけ多く用意せよ

自己資金6000万円があったおかげで、無収入でも15か月生き延びることができた。
資金はあればあるほどいい。

もし借入金だけだったら、赤字が続いても閉院できず、続けるしかなくなっていたかもしれない。
撤退の自由を確保するためにも、資金は多めに用意しておくべきと痛感した。


やばそうなら借金を返せるうちに撤退せよ

手元の現金より借金が多くなると、撤退すら難しくなる。
それが一番怖い。
逆じゃないかと思うかもしれないが、撤退するのは資金に余裕がある状態でないとできない。
銀行は下手をすると一括返済を求められる可能性がある
赤字でも続けるしかないという状態は、まさに地獄。

引き際を見誤らないことが、開業における最大のリスク管理だと思っている。


固定費に要注意(特に家賃と人件費)

開業前に真剣に考えるべきは、固定費の存在。
特に家賃と人件費は、毎月の経営を確実に圧迫する。

家賃について

  • 山手線圏内で新規開業して利益を出すのは難しい
  • 家賃は安ければ安いほどいい
  • 保険診療なら駅から遠くても問題ない
  • 自費診療なら駅近が望ましい

人件費について

  • 開業当初はワンオペも選択肢に入る
  • 電子カルテ・レセプト・自動精算システムを組み合わせれば可能
    (ただし、自動精算システムは月額費用がかかるので注意)

自費診療なら食券式もありかもしれない。食券の機械なら月額費用も掛からない
診察後、「IPL全顔 2万円」券を買ってきてくださいみたいな感じにすれば簡略化できる。


ワンオペの魅力と課題

ワンオペでやるなら、診療以外のすべての業務も自分でやる必要がある。

掃除、発注、帳簿管理、雑用……
私はこのあたりは苦にならなかった。むしろ得意な方だったと思う。

ただし、
一番不得意だったのは「診療」だった。


振り返ってみて

もう一度やりたいかと聞かれたら、答えはノー。
でも、自分に自信がある人はやってみてもいいんじゃないかと思う。
最近はSNSにより、自分をアピールする医師の方が圧倒的に有利である
逆に言うと腕はよくても職人気質の先生は開業には向かないので勤務医のほうがいいと思う

とはいえ、開業して閉院しても意外と、なんとかなるもんなので挑戦してほしい。


2020年1月、閉院時点の私のスペック

40代後半にして貯金を含めた全財産は約8万円・・・
100万円くらいは残るはずだったが、なんだかんだで結局8万円程度
完全に終わったと思った。

でも、ここで日本の税制度に救われる。


赤字の繰越控除

開業時の赤字は、個人なら3年間繰り越せる。
つまり、その後の収入から赤字分を控除できるため、しばらく税金はほぼかからない。
その後、勤務医として働いたお金のほとんどは無税だった

日本は、敗者に優しい国だった。


次に生まれ変わったら…

ミサワホームの医療コンサルタントになるわ。

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