形成外科クリニックを開業して、あっさり閉院した話 第9回

従業員との付き合い方

※例によって、独断と偏見多めでお送りします。


目次

率先して動いてくれた二人

開業したクリニックには、受付と看護師の二人が働いてくれていた。
もともと、完全一人でやるつもりだったので、事務作業も掃除も保険請求も、全部自分でやるつもりだった。

だから実のところ、二人に明確な仕事を割り振ったことはあまりない。

それでも二人は、自主的に掃除や洗濯、レセプト、小口現金の管理までやってくれていた。
(まぁ、患者が来ない時間が長すぎて、手持ち無沙汰だった可能性もあるが…)

1を聞いて10を知るタイプの人たちで、必要なルールも自分たちで考えて動いていた。
そのため、こちらから細かく指示することはほぼなかったし、やってない仕事があれば「じゃあ自分でやるか」くらいの感覚だった。

閉院時には感謝を込めて、ささやかながら給与+退職金(1か月分)を支払った。
本当に助けられたと思っている。


従業員とのトラブルはなかった

これまで勤務してきた病院やクリニックでも、従業員と揉めた記憶はあまりない。
(同僚とはしょっちゅう揉めていたけれども)

彼らは“病院が雇ったスタッフ”であり、“自分が直接雇ったわけではない”という距離感があったからだと思う。
責任も、主導権もなかったからこそ、揉める理由も生まれなかった。

逆に言えば、自分が雇用主になると、そのバランスが大きく変わる。


いろいろな準備について思うこと

どんな勤務先であっても、施術の準備はすべて自分でやっていた
術者であろうが助手であろうが、用意された器具は必ず一つずつ確認していた。

だから、「あれがない!これが違う!」と手術中に激昂する医師の気持ちは正直まったく理解できない。

あるとき、「それじゃ看護師の仕事って何なの?」と聞かれたことがある。
だが、それは別の話だ。

自分の責任で手術するなら、自分で準備するのが当たり前だろう。

そもそも、看護師の本分は“看護”であって、お前のお世話係ではない。
(このあたり、理解していない医師は意外と多い。)


オペの流れは全部自分で

クリニック勤務では、術前・術後の管理を含め、基本的に全部自分でやっていた。

  • 術前の道具の準備
  • 術中の点滴作成
  • 術後の薬の用意
  • 器具の洗浄・消毒・滅菌処理まで

最後の針の数の確認もなるべくなら自分でやるべき。
手術中に針を何本使ったか覚えていないようでは、そのうち事故を起こすと個人的には思う。


発注や金銭の管理も自分でやる

発注業務も、すべて自分でやっていた。

  • オンラインで簡単に注文できる
  • ジェネリックの価格確認も容易
  • 消耗品(トイレットペーパーやティッシュ)も自分で調達

金が絡むことは、基本的に全部自分で管理するべきだと思っている。

従業員に任せればラクかもしれないが、ミスやトラブルの火種になりやすい。
真面目な人ほど、金銭が絡むとストレスを感じやすいし、こっちも気を使う。


掃除は“手間”ではなく“日課”

掃除も当然、自分でやっていた。

  • 掃除機
  • モップ
  • トイレ・洗面の水回り
  • ゴミの回収

スタッフも手伝ってくれていたが、自分でも毎日やっていた。

クリニックによっては、診療の前後に掃除をさせているところもあるが、その時間に給与が出ていないケースも多い。

「掃除くらい当たり前でしょ」という空気感でやらせているなら、
その“当たり前”に、ちゃんと時給を払っているのか、少し考えてみたほうがいい。


自分は掃除していたか?

ここでひとつ、逆に問いたい。

勤務医時代、自分は掃除をしていたか?

30分早く出勤して、自分の外来の掃除をしていたか?
診療後に残って、床や水回りをきれいにしていたか?

もしやっていなかったのなら、それを従業員に“当然”として押しつけるのは、ちょっと違う気がする。

ちなみに開業当初は、30分の残業代すら厳しい状況だったので、すべて自分でやっていた。
今なら、ロボット掃除機を導入すればだいぶラクになる。おすすめ。


従業員に期待しすぎないこと

少し語弊があるかもしれないが、「従業員に過剰な期待をしないこと」はとても大事だと思っている。

私はたまたま、優秀で気の利く人たちに恵まれたが、それは運が良かっただけ。

ある本に、こう書いてあった。

  • 「企業当初は、会社の規模に見合った人しか集まらない」
  • 「もし悪い人に当たったなら、それは自分の写し鏡なのだ」

その通りだと思う。

いい人が来てくれたら感謝。
うまくいかない時は、まずは自分の足元を見直す。

それくらいの距離感でいたほうが、心も平和でいられる。

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